この知恵で考えられること
ただ、実際の起業家的な仕事を見ていると、完全に新しいものをゼロから作っているケースばかりではない。
起業家というと、「世の中にまだないものを作る人」というイメージがある。
もちろんそれもある。
ただ、実際の起業家的な仕事を見ていると、完全に新しいものをゼロから作っているケースばかりではない。
むしろ、
すでに社会に大量に存在しているが、まだまとまりとして機能していないものを見つける
ことの方が、本質に近い場合がある。
クリエイター、マネージャー、起業家
職業ではなく、何をしているかで分けてみる
かなり雑に機能として分けると、こんな違いがある。
- クリエイター
- まだ形になっていないものを形にする
- 表現、体験、プロダクト、方法などを生み出す
- マネージャー
- すでに存在する人・資源・活動が、継続して機能する状態を作る
- 配置、優先順位、意思決定、運用などを扱う
- 起業家
- 社会に散らばって存在しているものを見つけ、新しいまとまりとして機能させる
- 需要、供給、能力、関係、行動などに新しい接続方法を作る
当然、実際の人間はこんなに綺麗には分かれない。
起業家もプロダクトを作るし、組織をマネジメントする。
クリエイターが事業を作ることもある。
これは「起業家はこれしかするな」という分類ではなく、起業家的な仕事とは何をしている時なのかを見るための区分。
本当に「ないもの」を作っているのか
タイミーが作ったものは「働きたい人」ではない
たとえばタイミーができる前にも、
- 今日たまたま暇な人
- 今日少しお金が欲しい人
- 一日だけ働きたい人
- 今日だけ人が足りない飲食店
- 数時間だけ誰かに来てほしい店
は大量に存在していた。
つまり、
「今日働きたい人」と「今日働いてほしい店」
という実態自体は、すでにあった。
タイミーが発明したのは、その欲求ではない。
それまでバラバラに存在していて、互いに発見できなかったものを、
- 同じ単位で扱えるようにする
- 探せるようにする
- その場で接続できるようにする
- 働くところまでの手続きを簡単にする
- お金が流れる経路を作る
ことで、一つの市場として成立させた。
存在していても、まとまりになっていなければ機能しない
社会にはこういうものがかなりある。
- 時間は余っているが、使い道がない
- 能力はあるが、それを必要としている人に届いていない
- 場所は空いているが、利用者が見つからない
- 助けたい人はいるが、誰をどう助ければいいか分からない
- 強い関係性はあるが、それを維持したり活用したりする仕組みがない
一つ一つは実在している。
でも、サイズが小さすぎたり、散らばりすぎていたり、互いを発見できなかったりして、社会的には「存在しないもの」のように見える。
起業家が作るのは、そこで初めて使えるまとまりなのだと思う。
起業家はまとまりと流通経路を作る
まず、すでに起きていることを見つける
起業の出発点というと、アイデアを考えることを想像しやすい。
でもその前に、
- 人々はすでに何をしているのか
- 何にお金を払っているのか
- 何なら勝手にやっているのか
- どんなものが余っているのか
- 何があるのに使えていないのか
を見る。
ここで見つけたいのは「まだ誰も思いついていないアイデア」だけではない。
むしろ、
みんなすでにやっているのに、まだ一つのものとして認識されていない行動
はかなり面白い。
まとまりを作る
散らばった実態を見つけたら、それを同じものとして扱えるようにする。
たとえば、
- 共通の名前を与える
- 単位を揃える
- 利用方法を決める
- 参加条件を作る
- 相手を探せるようにする
名前をつけること自体が価値なのではない。
それまでバラバラだったものを、他人も同じ対象として認識できるようにするために使う。
流通させる
まとまりになっても、動かなければあまり意味がない。
だから、
- 必要としている人に届く
- 提供できる人が参加できる
- お金や情報が流れる
- 一度きりではなく繰り返せる
ところまで作る。
実態が、
「確かにあるよね」
から、
「じゃあ使えるね」
に変わるところまでが、起業家的な仕事になる。
新しいものより「余っているもの」が面白い
足りないものばかりを見る必要はない
事業アイデアを考える時には、
- 何に困っているか
- 何が不足しているか
- どんな不満があるか
を探すことが多い。
もちろん重要。
でも逆に、
何が余っているか
を見る方法もある。
- 暇な時間
- 空いている部屋
- 使われていない機械
- 暇を持て余している人
- 誰かに話したい知識
- 人を助けたい気持ち
- 遊びたい人
- まだ使われていない関係性
余っているものは、単独では価値にならないことがある。
必要な場所に接続されて初めて価値になる。
「足りないから作る」以外にも事業は生まれる
たとえば、
友達がいない人に、友達を提供する。
これはかなり難しい。
友情がどう生まれるかは不確実だし、「友達がいない状態」を直接プロダクトで消すのは簡単ではない。
一方で、
- 人を面白がる人
- 誰かと何かをやりたい人
- すでに友達との時間を楽しんでいる人
- 面白い人を他の人にも紹介したい人
は存在する。
その活動をもっとやりやすくする方が、設計としては扱いやすい。
その結果、新しい関係が生まれて孤独が減ることもある。
最初から「孤独を救う」と言わなくてもいい。
「ないものを作る人」ではなく「あるものを機能させる人」
社会の変化は、発明だけでは起きない
完全に新しい技術や作品を生み出す人は重要だ。
でも、それだけで社会は変わらない。
すでにあるものを、
- 見つける
- 一つの対象として切り出す
- まとまりにする
- 接続する
- 流通させる
ことで、初めて大きな活動になることも多い。
だから起業家の仕事を、
新しいものを作ること
だけで考えると、かなり狭くなる。
むしろ、
社会にすでに存在しているのに、まだ社会として使えていないものを機能させること。
そのために、新しい名前、新しい会社、新しいプロダクト、新しい市場を作る。
それも起業家のかなり大きな仕事だと思う。