この知恵で考えられること
- 消費は、単に「何を買ったか」では整理しきれない。 - 同じ商品を買っていても、その消費が何に繋がっているのかは違う。 - 同じお金を払っていても、その交換がどのような関係の中で成立しているのかも違う。 - ひとつは、得るものの軸。 - もうひとつは、交換形態の軸。
消費を2つの軸で見る
消費は「何を得るか」と「どう交換するか」に分けられる
消費をひとつの分類で捉えると混ざりやすい
- 消費は、単に「何を買ったか」では整理しきれない。
- 同じ商品を買っていても、その消費が何に繋がっているのかは違う。
- 同じお金を払っていても、その交換がどのような関係の中で成立しているのかも違う。
- ひとつは、得るものの軸。
- もうひとつは、交換形態の軸。
第1軸は「その消費によって何を得ているか」
- 得るものの軸は、消費が自分に何をもたらしているかを見る軸である。
- 自分ではできないことを可能にしているのか。
- 共同化された仕組みに参加しているのか。
- 自分でできることを省略しているのか。
- 自分の生活や制作の循環に戻ってきているのか。
- ここで見ているのは、商品カテゴリではない。
- 消費によって、自分の能力・生活・判断・関係・制作がどう変化しているかである。
第2軸は「どのような交換として成立しているか」
- 交換形態の軸は、その消費がどのような価値の読み方によって成立しているかを見る軸である。
- 誰にでも価値が読めるものによる交換なのか。
- 文脈を共有する当事者たちには価値が読めるものによる交換なのか。
- そもそも交換物を切り出す前に、共に存在することで価値が発生しているのか。
- ここで見ているのは、支払い手段だけではない。
- 価値がどの範囲で読まれ、どのような関係の中で成立しているかである。
全体像


得るものの軸
自己拡張型の消費
- 自己拡張型の消費とは、自分ではできないことを、他者・道具・作品・サービスを通じて可能にする消費である。
- 自分の能力、身体、知覚、経験、時間、技術の限界を、外部の力によって広げる。
- ここで得ているものは、単なる商品ではなく、自分の外側にある能力や経験へのアクセスである。
- 自分では作れない料理を食べる。
- 自分では演奏できない音楽を聴く。
- 自分では描けない漫画や映画を見る。
- 自分では設計できない家に住む。
- 自分では診断できない病気を医師に診てもらう。
- 自分の身体だけでは移動できない距離を、飛行機や新幹線で移動する。
- 自己拡張型の消費では、外部の能力を一時的に自分の可能性として取り込んでいる。
共同参画型の消費
- 共同参画型の消費とは、自分ひとりで作る・持つ・運用するのではなく、共同化された仕組みに参加する消費である。
- 個人で抱えるには大きすぎる設備、流通、在庫、運用、情報、基盤に乗ることで、生活や仕事を成立させる。
- ここで得ているものは、商品そのものだけではなく、共同化された合理性への参加である。
- 電車に乗る。
- 水道、電気、通信を使う。
- スーパーで買い物をする。
- コンビニを使う。
- SaaSを契約する。
- クラウドを使う。
- NetflixやSpotifyのような配信基盤に参加する。
- 共同参画型の消費では、自分ひとりでは持てない仕組みを、共同化された形で使っている。
自己省略型の消費
- 自己省略型の消費とは、自分でもできることを、考えない・選ばない・作らない・管理しないために外部化する消費である。
- これは必ずしも悪い消費ではない。
- 人間の時間、体力、注意力、判断力には限界がある。
- だから、自分で担えることをすべて自分で担う必要はない。
- ただし、この消費では、自分の行為や判断の一部を省略している。
- 献立を考えたくないから外食する。
- 掃除の段取りを考えたくないから掃除代行を頼む。
- 比較検討したくないからランキング1位の商品を買う。
- 文章を考えたくないからテンプレートを買う。
- 旅行計画を立てたくないからパッケージツアーを買う。
- 自己省略型の消費では、自分の判断・制作・選択・管理・段取りの一部を外部に出している。
交換形態の軸
Universal
- Universal Exchangeとは、誰にでも価値が読めるものによる交換である。
- 日本語では、普遍交換、あるいはグローバル通貨による交換と言える。
- 円、ドル、クレジット、ポイント、価格、チケット、サブスク料金のように、文脈を超えて通用する対価によって成立する。
- その人が誰であるか、どんな履歴を持っているか、どの文脈にいるかは、基本的には問われにくい。
- 支払い能力があれば、誰でも同じものにアクセスできる。
- コンビニで水を買う。
- Amazonで商品を買う。
- 映画のチケットを買う。
- SaaSに月額課金する。
- 新幹線や飛行機に乗る。
- 専門家に料金を払う。
- Universal Exchangeは、価格化しやすく、比較しやすく、スケールしやすい。
- 一方で、交換から個別性や関係性は削ぎ落とされやすい。
Contextual
- Contextual Exchangeとは、文脈を共有する当事者たちには価値が読めるものによる交換である。
- 日本語では、文脈交換、あるいはコンテクスト通貨による交換と言える。
- 一般市場では価格がつきにくいが、その領域、その現場、その関係、その文化の中では価値があるものを使って交換する。
- 価値の根拠は、汎用価格ではなく、用途、由来、履歴、必要性、タイミング、関係性、理解度にある。
- 農家同士で、余った資材、機械、人手、ノウハウを交換する。
- クリエイター同士で、素材、レビュー、紹介、実装協力を交換する。
- ゲーム開発者同士で、テストプレイ、フィードバック、配信機会、導線設計の知見を交換する。
- 地域の中で、空き家情報、人手、道具、紹介、信用が交換される。
- コミュニティの中で、観測、語り、参加履歴、貢献、制作物が価値になる。
- Contextual Exchangeでは、誰でも払える対価ではなく、当事者たちだから価値を読めるものが媒介になる。
- 外から見ると無価値に見えるものでも、文脈の内側では強い交換価値を持つ。
Symbiotic
- Symbiotic Exchangeとは、交換物を切り出す前に、共に存在し、影響し合うことで価値が発生する交換である。
- 日本語では、共生的交換、あるいは存在交換に近い。
- ここでは、何かを払って何かを受け取るという構造が薄い。
- 価値は、商品や対価として事前に存在しているのではなく、その場の関係や出来事の中で立ち上がる。
- よい対話では、どちらかが商品を提供し、どちらかが消費しているわけではない。
- 互いに言葉を出し、反応し、考えを変化させることで、その場にしかない意味が生まれる。
- ライブでは、演者だけが価値を提供しているわけではない。
- 観客の熱、沈黙、歓声、身体の揺れも、そのライブという事象を成立させている。
- 祭り、ジャムセッション、ワークショップ、共創の場、試遊会、コミュニティ、師弟関係、推しとファンの関係にも同じ構造がある。
- Symbiotic Exchangeでは、価値を交換しているというより、一緒に生態系を成立させている。
- 価値は所有されるものではなく、共に存在し、反応し、変化し合う中で発生する。
2つの軸を組み合わせる
同じ消費でも、得るものと交換形態は別々に見られる
- たとえば、ライブに行くという消費を考える。
- チケットを買う部分は、Universal Exchangeである。
- そのアーティストやファンコミュニティの文脈がわかることで、より深い価値を受け取るなら、Contextual Exchangeの要素もある。
- 会場で演者と観客が互いに影響し合い、その場だけの熱が生まれるなら、Symbiotic Exchangeでもある。
- 得るものの軸で見ると、自分では作れない音楽体験に触れるので、自己拡張型である。
- その体験が自分の感性や制作に戻ってくるなら、自己循環型でもある。
- つまり、ひとつの消費は、複数の軸にまたがっている。
SaaSを使う場合
- SaaSに月額料金を払うことは、Universal Exchangeである。
- 多くの会社が使う共同化された業務基盤に参加するという意味では、共同参画型の消費である。
- 自社では作れない高度な機能を使うなら、自己拡張型の消費でもある。
- しかし、本来整理すべき業務設計に向き合わず、ツール導入で済ませようとするなら、自己省略型の消費になる。
- そのSaaSが自社の運用や判断の蓄積に戻り、日々の仕事を回し続けるなら、自己循環型にもなる。
- このように、同じサービスでも、何を得ているかによって意味は変わる。
コミュニティに参加する場合
- 会費を払って参加するなら、入口にはUniversal Exchangeがある。
- そのコミュニティ内でだけ価値がわかる情報、紹介、信用、語り、役割が交換されるなら、Contextual Exchangeが起きている。
- さらに、参加者同士が互いに影響し合い、その場にしかない発見や関係性が生まれるなら、Symbiotic Exchangeになる。
- 得るものの軸では、未知の視点や機会を得るなら自己拡張型である。
- 仲間や共同基盤に参加するなら共同参画型である。
- 孤独や迷いを軽くするために使うなら、自己省略型の側面もある。
- そこで得たものが制作、生活、関係性に戻ってくるなら、自己循環型になる。
消費を見るための問い
得るものを見分ける問い
- この消費は、自分ではできないことを可能にしているか。
- それなら、自己拡張型の消費である。
- この消費は、自分ひとりでは持てない仕組みに参加しているか。
- それなら、共同参画型の消費である。
- この消費は、自分でもできることを省略しているか。
- それなら、自己省略型の消費である。
- この消費は、自分の生活、制作、感性、回復、関係性に戻ってくるか。
- それなら、自己循環型の消費である。
交換形態を見分ける問い
- この交換は、誰にでも価値が読める対価で成立しているか。
- それなら、Universal Exchangeである。
- この交換は、当事者たちには価値が読めるものによって成立しているか。
- それなら、Contextual Exchangeである。
- この交換は、共に存在し、反応し、影響し合うことで価値が発生しているか。
- それなら、Symbiotic Exchangeである。
大事なのは、良し悪しではなく構造を見ること
- 自己拡張型がよく、自己省略型が悪いわけではない。
- Universal Exchangeが浅く、Symbiotic Exchangeが深いわけでもない。
- それぞれに役割がある。
- 疲れている日に外食する自己省略型の消費は、生活を守るために必要なことがある。
- Universal Exchangeによって、誰でも一定の価値にアクセスできることには大きな意味がある。
- 一方で、すべてをUniversal Exchangeに閉じると、文脈の中でしか読めない価値や、共に存在することでしか立ち上がらない価値は失われやすい。
- 重要なのは、自分が何を得ていて、どのような交換に参加しているのかを見分けることである。
消費は、自分と世界の接続方法である
消費は支出ではなく、関係の設計でもある
- 消費とは、単にお金を払って何かを手に入れることではない。
- それは、自分の限界をどこまで外部に開くかを決める行為である。
- 自分ひとりでは持てない仕組みに、どのように参加するかを決める行為である。
- 自分で担えることのうち、何を省略するかを決める行為である。
- 得たものを、自分の生活や制作に戻すか、その場で消尽させるかを決める行為でもある。
価値は、価格だけでは測れない
- Universal Exchangeでは、価値は価格として見えやすい。
- Contextual Exchangeでは、価値は文脈の中で読まれる。
- Symbiotic Exchangeでは、価値は出来事や関係の中で立ち上がる。
- 価格があるものだけが価値ではない。
- 当事者たちにしか読めない価値もある。
- 一緒にいることでしか生まれない価値もある。
- 消費を2軸で見ると、こうした価値の違いを見失いにくくなる。
消費の成熟とは、接続を自覚すること
- 成熟した消費とは、高いものを買うことではない。
- 自分にとって必要な接続を、自覚して選べることである。
- 自分を拡張したいのか。
- 共同化された仕組みに参画したいのか。
- あえて自分の負荷を省略したいのか。
- 得たものを自分の循環に戻したいのか。
- 誰にでも価値が読める交換でよいのか。
- 文脈を共有する当事者同士の交換が必要なのか。
- それとも、共に存在することでしか発生しない価値を求めているのか。
- この問いを持つことで、消費は単なる支出ではなく、自分と世界の接続方法を選ぶ行為になる。