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マーケティング原則・概念

顧客の内的モデルを復元するには。

マーケティングで顧客を理解するとは、顧客の属性やニーズを知ることではない。

この知恵で考えられること

マーケティングで顧客を理解するとは、顧客の属性やニーズを知ることではない。

マーケティングで顧客を理解するとは、顧客の属性やニーズを知ることではない。

本当に必要なのは、その人の目から何が見えていて、その情報をどう解釈し、何を期待し、何を恐れ、どのような順番で意思決定しているのかを、自分の頭の中で再現できることだ。

顧客本人が「私はこう考えています」と正確に説明してくれることはほとんどない。

実際に観測できるのは、

  • 相談には来るが買わない
  • 比較を続ける
  • 早く買う人とギリギリまで悩む人がいる
  • 「良かったです」と言って帰る
  • 他社も見たいと言う
  • 商品ではなく人に相談したがる

といった断片的な行動だけである。

そこから、「この行動が本人にとって合理的になるとしたら、頭の中では何が起きているのか」を逆算する。

これが、顧客の内的モデルを復元するということだ。

視点

顧客の発言でも行動でもなくそれらを生成している内部モデルを見る

顧客理解というと、インタビューでニーズを聞いたり、アンケートを集めたり、ペルソナを作ったりすることを想像しやすい。

もちろんそれらも役に立つ。

ただし、顧客が言ったことと、顧客の行動を生み出している構造は同じではない。

たとえば

相談を受けた顧客が、「とても参考になりました。もう少し自分で考えてみます」と言ったとする。

表面的には、

  • 情報が足りない
  • 他商品と比較したい
  • クロージングが弱かった

と解釈できる。

しかし別の可能性もある。

「相談相手としては非常に信頼している。しかし、この人から商品を買う人として自分を認識していない」という状態かもしれない。

この場合、必要なのはクロージングの改善ではない。

そもそも相談開始時点で、顧客から何者として認識されているかを変える必要がある。

顧客の発言をそのまま課題として受け取るのではなく、その発言や行動を生み出した内的モデルを推定する。

ここから顧客理解は始まる。

小さな違和感を捨てない

内的モデルを復元する入口は、大きなデータ分析である必要はない。

むしろ重要なのは、「なんか違う」という小さな違和感である。

例:五月人形と雛人形の販売を考えていたとする。

五月人形では、訪問して実物を見せ、相談に乗ることで、その場で「これでいいじゃん」と決まりそうな感覚がある。

一方で、同じ販売方法を雛人形に持ち込んだときには、どこか引っかかる。

まだ理由はわからない。

ここですぐ、「女性向けだから違う」「商品の種類が多いから違う」と説明を固定しない。

まずは違和感を残す。

そして、

  • なぜ五月人形なら決められそうなのか
  • なぜ雛人形では決めたくなさそうなのか
  • 商品そのもの以外に何が違うのか

を考える。

すると、

  • 顔のある人形である
  • 選ぶ人の主体性がより強い
  • 一生に一度の買い物という感覚がある
  • 選ぶ行為そのものにも意味がある
  • 早く決めることが価値ではない可能性がある

といった仮説が出てくる。

洞察は、最初から正解を知っていることではない。

単純な説明では吸収できない違和感を残し、その違和感を説明できるモデルを探し続けることから生まれる。

「なぜ買わないか」ではなく「なぜその行動が合理的なのか」を考える

マーケティングでは、顧客の行動を企業側から評価してしまいやすい。

  • なぜ買ってくれないのか
  • なぜ比較を続けるのか
  • なぜ今決めないのか
  • なぜ問い合わせだけして離脱するのか

しかし、この問い方をすると顧客が「動かない理由」を探すことになる。

内的モデルを復元するときは、問いを変える。

「この人にとって、この行動が最も自然な選択になるとしたら、何を守ろうとしているのか」

と考える。

雛人形を今決めない人であれば、「まだ比較したいから」だけではないかもしれない。

たとえば、

  • 後悔したくない
  • 自分で選んだ感覚を持ちたい
  • 選択肢を早く閉じたくない
  • 子供と少し暮らしてから似合うものを考えたい
  • 人生で一度しかない選ぶ体験を失いたくない

という目的があるかもしれない。つまり商品は関係ない。

顧客の行動は、企業側から見ると非効率でも、その人の目的関数の中では極めて合理的である。

顧客の内的モデルを復元するとは、その合理性を見つけることでもある。

実践方法

実務では5段階で考える

1. 行動を書く

まず解釈せず、起きていることだけを書く。

  • 相談後の満足度は高い
  • 即決率は低い
  • 他社を見てから決める人が多い

2. 違和感を探す

単純な説明では噛み合わない場所を見る。

「満足しているのに、なぜ買わないのか」

ここが入口になる。

3. 顧客にとっての合理性を考える

「買わない原因」を探すのではなく、

「この行動が合理的になる世界はどんな世界か」

を考える。

4. 内的独白にする

顧客が頭の中で言っていそうな言葉を書く。

「教えてほしいけど、あなたに決めてほしいわけではない」

「今日決めたら、選ぶ楽しみが終わってしまう」

のように具体化する。

5. 事業側を変えて検証する

顧客心理を説得で変えようとせず、そのモデルに適合する体験を作る。

  • 即決ではなく予約を取る
  • 商品ではなく担当者を決めてもらう
  • 完成品ではなくセミオーダーにする
  • 比較を止めさせるのではなく比較プロセスに入り込む

そして反応を見る。

顧客の「内的独白」を書いてみよう。

仮説を深めるために非常に有効なのが、顧客の頭の中の言葉を作ってみることだ。

たとえば、「人生で一度かもしれない、好きなお雛様を選ぶ体験を私から奪わないでよ」というように書いてみる。

もちろん、実際の顧客がこの言葉を発したわけではない。

重要なのは、この独白を持った人間を仮定すると、観測された行動が自然に説明できるかどうかである。

  • 訪問相談は歓迎する
  • 商品知識は教えてほしい
  • しかしその場で決めることには抵抗する
  • 他の商品も見たくなる
  • 良い接客を受けても一旦帰る

これらが一つの心理から説明できるなら、かなり強い仮説である。

内的独白はコピーライティングのために作るものではない。

顧客モデルの整合性を、誰も語ってくれない脳内モデルを確認するための道具である。

自分を顧客に投影するのではなく、顧客の条件を自分に移植する

「顧客になったつもりで考えよう」という言葉には注意が必要だ。

自分がその商品を買うならどうするかを考えても、それは顧客理解にはならない。

自分には、

  • 業界知識
  • 商品知識
  • 購買経験
  • 金銭感覚
  • 家族構成
  • 価値観

がすでに存在するからである。

必要なのは、自分を顧客に投影することではない。

顧客が持っている条件を、自分の頭の中に一時的に再構成することである。

その人は、

  • 何を知っているのか
  • 何を知らないのか
  • 何と比較しているのか
  • 何を当然だと思っているのか
  • 誰の意見を気にするのか
  • 過去にどんな経験をしたのか
  • 何を失敗と感じるのか

を考える。

その状態を作った上で、顧客の行動を頭の中で再生する。

「自分ならどうするか」ではなく、「この条件を持った人ならどうするのが自然か」が問いになる。

顧客の「視界」と「思考」を分けて復元する

内的モデルを復元するときは、「視界」と「思考」を分けて考えると精度が上がる。

視界を復元する

まず、その顧客から何が見えているかを考える。

客観世界に存在するすべての商品が、顧客にとっての選択肢になるわけではない。

顧客が認知していて、アクセスできて、選択可能だと感じているものだけが、その人の世界に存在する。

たとえば、

  • Googleで検索して出てきた商品
  • Instagramで見たブランド
  • 母親から教えてもらった店
  • 近所のショールーム
  • 百貨店
  • ふるさと納税
  • 訪問してくれる販売員

が同じ意思決定空間に入っている可能性がある。

企業が定義した「競合カテゴリ」と顧客が認識している競合は一致しない。

まず顧客の視界を再構成する。

思考を復元する

次に、その視界に入った選択肢をどう処理するかを見る。

  • どれを信用するか
  • どれを怪しいと思うか
  • 何を比較するか
  • どこで迷うか
  • どんな証拠があると安心するか
  • 何を失うのが怖いか
  • 何が起きれば今日決められるか

を考える。

視界に存在しないものは選ばれない。

視界に入っていても、その人の思考モデルと噛み合わなければ選ばれない。

この2つを分けるだけでも、マーケティング施策の見え方はかなり変わる。

顧客の内的モデルを復元するための問い

実際の案件では、次のような問いを繰り返すとよい。

  • 顧客から見えている選択肢は何か
  • 顧客は今、自分が何をしようとしていると思っているか
  • この企業を何者だと思っているか
  • 顧客が「成功」と感じる意思決定は何か
  • 何を後悔したくないのか
  • 何を失いたくないのか
  • なぜ今決めないことが合理的なのか
  • 今決めることで失われるものは何か
  • 相談したいことと、任せたいことは同じか
  • 顧客は商品を選んでいるのか、人を選んでいるのか
  • 顧客は購入を終わらせたいのか、選ぶ時間を楽しみたいのか
  • 顧客が最終的に別の商品を買ったとしても、途中までこの行動をした理由は何か
  • 自分の仮説が正しいなら、次にどんな行動が起きるはずか

問いの目的は、顧客心理を美しく言語化することではない。

顧客の次の行動を説明・予測できるモデルを作ることである。

具体的な対策や実施

「買う理由」と「今買う理由」は違う

内的モデルを追うと、商品の価値と購入タイミングが別の問題であることも見えてくる。

五月人形を「良い商品だ」と思う理由があっても、12月に買う理由にはならない。

顧客からすると、「五月までに買えばいい」のであれば、比較を続ける方が自然である。

このとき必要なのは商品の魅力をさらに説明することではない。

「なぜ今意思決定を完了するのか」という別のモデルを作る必要がある。

たとえば、

  • 年内ならふるさと納税が使える
  • 今なら自宅で実物を見ながら選べる
  • 早い段階から職人と相談しながら作れる
  • 出生直後から準備を始められる

といった理由である。

ここから、「五月人形市場でどう勝つか」という問い自体が変わる。

「年内に五月人形を決める市場を作れないか」

という市場設計の問いになる。

内的モデルを理解すると、施策だけではなく市場の切り方そのものが変わる。

商品を変えず、意思決定の単位を変える

雛人形の例では、さらに一段進んだ発想ができる。

顧客が、「まだ完成品を決めたくない」のであれば、無理に完成品を買わせる必要はない。

代わりに、「この人と一緒に雛人形を作る」ことだけを先に決めてもらう。

ウェディングプランナーを先に選び、その後に式の詳細を詰めていくのと似ている。

商品を即決することには抵抗があっても、

  • この職人に頼みたい
  • この人と相談していきたい
  • この店で作ることは決めてもいい

という意思決定ならできるかもしれない。

この場合、マーケティングによって顧客心理を変えたわけではない。

顧客の自然な意思決定構造に合わせて、取引の単位を変えている。

内的モデルを理解する価値はここにある。

広告コピーを良くするだけではなく、

  • 商品設計
  • 販売方法
  • 契約
  • 接客
  • タイミング

まで変えることができる。

「満足」と「購買」を同じものとして扱わない

顧客理解で起こりやすい失敗の一つが、体験価値を上げれば購買も増えると考えることだ。

相談体験を非常に良くした結果、「自分が何を欲しいかわかりました。ありがとうございます」と顧客が満足して帰ることもある。

顧客に価値は提供している。しかし売上にはならない。

このとき、「もっと強くクロージングする」だけでは解決しないことがある。

顧客の内的モデルの中で、この企業が、「商品を買う場所」ではなく、「商品選びを教えてくれる場所」として位置づけられているかもしれないからだ。

この問題は接客の最後ではなく、顧客が最初に企業を認識した瞬間に始まっている。

  • 職人なのか
  • 解説者なのか
  • 販売員なのか
  • 相談相手なのか
  • 一緒に作るパートナーなのか

顧客から何者として見えるかによって、その後に自然に取れる行動が決まる。

企業が何者であるかではなく、顧客の内的モデルの中で何者になっているかを見る必要がある。

勘違いしてはいけないこと

顧客モデルは、一つの仮説で決めてはいけない

内的モデルは観測できない。だから、必ず仮説として扱う。

たとえば雛人形が決まりにくい理由についても、

  • 顔があるから
  • 女性側の意思決定権が強いから
  • 自己表現性が高いから
  • 選ぶ体験自体に価値があるから
  • 後悔回避が強いから

など、複数の仮説を持っておく。

その上で、「この仮説なら他のどんな行動が起きるはずか」を考える。

もし「選ぶ体験を失いたくない」が重要なら、

  • カスタマイズへの反応が良い
  • 一度に決めさせない方が満足度が高い
  • 子供との生活が始まった後に再相談したがる
  • 完成品よりセミオーダーに魅力を感じる

といった予測ができる。

そして実際の顧客行動で確かめていく。

顧客の内的モデルとは、もっともらしいストーリーを作ることではない。

観測された行動を説明し、まだ観測していない行動まで予測できるモデルを作ることである。

洞察とは、見えないものを当てることではない

顧客の内的モデルを復元するというと、天才的な直感やセンスの話に聞こえるかもしれない。

しかし実際には、かなり地道な作業である。

観察する。違和感を残す。単純な説明を疑う。顧客にとっての合理性を考える。内的独白を作る。複数の仮説を持つ。そこから起こるはずの行動を予測する。実際に試す。

この繰り返しによって、顧客について知っている状態から、顧客の思考を自分の頭の中で再実行できる状態へ近づいていく。

優れたマーケティングは、顧客を説得する技術から始まるのではない。

まず顧客が見ている世界を復元する。

その世界の中で、その人がなぜその行動を取るのかを理解する。

そこまでできれば、売り方を考える前に、

「そもそも、どう売るのがこの人にとって自然なのか」

が見えてくる。