この知恵で考えられること
直近、クライアントでのマーケティング領域の抜本DX/AIXを進めていた。
概要
直近、クライアントでのマーケティング領域の抜本DX/AIXを進めていた。
いろいろと過程で言語化できることが多かったのでそれをまとめた記事。
.
.
.
この記事を書くきっかけ?
センコーは、マネジメントや運用業務よりも先にマーケティングの仕事は自動化率がかなり高まるんだろうなと割とずっと、5年くらい前から思っている。だけどあんまり伝わらない。
CSや運営のDXばかり進むのは、DXの仕事として安定するから先に育っているだけ。
いわゆるクイックウィンが作れるから。
本格的に丸っとなくなる段階に先に至るのはマーケティングの方が早いと思っている。
.
.
CSや運営のDXは取引先などはあれども、成果が自社完結なので、頑張ればどの会社も手に入れられる。競合がDX頑張ったらこっちの生産性下がるとかがない。
だから、内部外部ともに、仕事としてはとても良い。
ただ、会社同士の競争としても運営原価の競争が主戦場になるはずはない。
マーケティングの機械化の方が会社ごとの暗黙知をふかぼらずとも論理が共通性が高い。
機械投資の主戦場はマーケティングにまた戻ると思っている。
(海外側はずっとそっちがメインでもある。)
.
.
直近でマーケティング領域の抜本的な大規模DX/AIXの案件があったので、具体的な着手に至るまでの提示やクライアントとの2ヶ月ほどのログを元に体系化してみたので記事にしてみる。
.
.
.
.
.
主題は4つ
この記事は以下の4点を辿っていきます。
A.マーケの役割の肥大化の背景、普遍的な泥臭さの根源
B.マーケティングの仕事を機械化の視点で再分解する
C.DX/AIXの前提条件を知る
D.マーケティング領域におけるDXビジョンと初手を描けるようになるには
.
.
.
A.マーケの役割の肥大化の背景、普遍的な泥臭さの根源
デジタルはマーケティングを事業の中心へ押し上げた
事業とは、いつも4領域の総力戦となる。
- 着想を形にするクリエイティブ
- 人や社会との関係を育てるマーケティング
- 目的と資源配分を決める経営
- 約束したものを届け続ける運営
デジタルの普及により、接点をつくる費用、反応を知るまでの時間、変更を加える手間が変わった。
検索、EC、SNS、メール、広告、自社サイトなどを使い、小さな組織も顧客へ直接届け、反応を受けて次を試せるようになった。
その往復が変えるのは、広告の成績が伸びるだけではない。
マーケティングは完成したものを届ける仕事であり、何を完成させるかにも影響する。
だからこそ、デジタル接点全般を担うマーケティング部門の責任比率が高止まりしていく。
.
.
.
基本的にマーケティングは泥臭く、企業個別の暗黙知は実は少ない。だから機械化との相性は本来良い。
マーケティングの仕事には、判断を生む営みと、その判断を成立させる庶務も混ざっている。
ここは、本来、機械と相性のよい働きが多い。
- いくつもの表現や接点を用意して試す。
- 経路ごとの結果を読み続け、配信や予算を増減する。
- 効果の薄い試行を止め、次の仮説を変える。
人が一件ずつ管理画面を開いていては扱いきれない組み合わせと変化の速度がある。
ただし、媒体の中で入札が自動化されたことと、事業のマーケティングが自律的に進むことは違う。
媒体が見ている申込の件数と、社内で起きた受注、利用、利益がつながっていなければ、受注につながらない申込を増やすかもしれない。
市場のどの見方を疑い、どの人の困りごとを確かめ、何を変えれば事業が進むかを考える。
会社ごとの事情も、もちろん判断に影響する。
ただ、そうした事情を読み、仮説を立て、接点をつくり、反応を受けて調整する過程には、事業をまたいで共通する構造がある。
これまで人が複数の道具と関係者を横断して担ってきたその過程を、仕事として捉え直す余地がある。
.
.
.
.
.
B.マーケの仕事を機械化の視点で再分解する
基本的なプロセスツリー
およそ3段階、16ステップでマーケティングのライフサイクルは解説ができる。
このプロセスをそれぞれ仕事が持つ情報構造を明らかにしていく。
目的はただ細かくすることではなく、どういった行為と情報でマーケティングが成立しているのか?その全体像を解像度高く捉えるため。

.
.
.
仕事の情報構造
マーケティングの仕事を「調査」「制作」「広告運用」のように作業名で分けると、それぞれが何を読んで始まり、何を変え、その結果が次の判断にどう戻るのかが見えにくい。
機械化に向かう視点で見るため、一つ一つの業務を、以下の8項目で整理する。

補足
- 似て見える項目も分けている。
- たとえば「顧客の利用状況」は読む情報であり、それが置かれているプロダクトログや問い合わせ記録は情報源である。
- 「広告の表現を変える」は反映先であり、実際に変更する広告管理画面やCMSは書き込む場所になる。
- この区別によって、仕事がまだ止まっている理由を特定できる。
- この分類の意図は、各業務に「AIでできる・できない」の札を貼ることではなく、その前段階のため。
- 人が毎回つないでいる箇所を見つけ、どこまでなら目的から再観測までを一続きの仕事として引き渡せるかを考えることにある。
.
.
.
仕事の情報構造の細分化
ここはより詳細まで興味がある人は読んでもいいかも。
情報量は多いので、「確かにその工程はその情報なり反映先だね〜」てノリで見るのがおすすめ。
1.市場戦略設計
1-1.事業目標と制約の把握

1-2.マクロな市場観測

1-3.ミクロな市場理解

1-4.市場・ターゲット選択

1-5.戦術方針の判断

2.マーケティングエンジニアリング
2-1.コミュニケーションの実装

2-2.市場反応の統合

2-3.原因/再現性の診断

2-4.コミュニケーションの最適化

2-5.広告資本の再配置

2-6.損切りとピボット

3.市場・プロダクト接続
3-1.利用実態の観測

3-2.原因/再現性の理解

3-3.プロダクト課題への翻訳

3-4.開発判断への接続

3-5.変更後の再観測

.
.
.
.
.
.
.
.
重要な補足
“1-5.戦術方針の判断”は、戦略選定以上に重要になることも多い。
- 戦術と呼ぶと戦略より重要じゃないように聞こえるが、最重要なポイントである。
- 市場とターゲットを選んでも、働きかけ方は一つに決まらない。
- 同じ相手に向けても、広告で広く知らせるのか、紹介から少数に試してもらうのか、営業が導入を支えるのかで、必要な費用も、顧客との関係も変わる。
- 会社にとって得意なコミュニケーションスタイルも違う。
- ここでは市場の情報に加え、自社のポジショニング、得意な表現、制作できる量、営業・運営の体制、予算、創造家や経営者の意図を読む。
- そのうえで、どの接点から入り、何を約束し、どの程度試し、何を成果として見るかを決める。市場に対して、自分たちはどう振る舞うかという判断である。
“2-6.損切りとピボット”は、戻る先によって四つに分かれ、同一に扱いきれない。
市場の反応が想定と違ったとき、すぐに「広告を直す」「商品を変える」とは決められない。原因を確かめたうえで、どの階層の仮説を見直すべきかを選ぶ。
-
損切り
現在の戦術の範囲内で、根拠の弱い施策や予算を止める。
-
戦術ピボット
対象は維持し、チャネル、表現、試す順番、体験、価格の見せ方などを変える。
-
戦略ピボット
ターゲット、ポジショニング、市場そのものを見直す。市場戦略設計へ戻り、事業を担う人が判断する。
-
プロダクトピボット
接点や伝え方では解けない原因を、市場・プロダクト接続へ渡す。利用上の障害を問題として定義し、開発判断につなげる。
エージェントが四つすべてを自分で決める必要はない。施策を止める条件、戦術を変更できる範囲、戦略や商品へ問題を返す際の根拠と引き渡し先を定義できればよい。原因がまだ分からないときには変更を急がず、何を追加で確かめるかを判断することも、この仕事に含まれる。
.
.
.
.
.
C.DX/AIXの前提条件を知る
まず、AIXには思考補助から自律循環までの程度がある
AIを使っている組織同士でも、仕事の移り方は違う。
どんな支援を受け、いつ人が関わるかを、ひとまず次のように分けられる。

- 思考補助
- 人が考えるための整理、発想、分析、仮説づくりを助ける。
- 参照補助
- 必要な情報を探し、複数の情報源を横断し、判断材料として提示する。
- 作業補助
- 人の指示に基づいて、文章作成、設定、集計、入稿などの一部を実行する。
- 作業代替
- 定義された作業を、人の都度指示なしで実行する。
- 自律循環
- 結果を観測し、原因を推定し、次の行動を選び、実行し、その結果を再び読むところまで循環する。
どう言った程度までDX/AIXができないと意味や成果を齎しにくいかは仕事によって異なる。
オペレーション領域ほど細分化した単位での作業代替や参照補助だけでも生産性の成果の完全性が成り立つことが多いが、マーケティングにおいては自立循環まで至れる切り取り方をしなければ売上や生産性にまでヒットすることは少ない。
.
.
.
仕事に対する機械からのアクセシビリティは5段階ある
AIでそれが生成できるか?代替できるか?という問いは雑である。
仕事によって以下の4要素が異なり、その内容がどういったものかがDX/AIXの実現性を測る分水嶺になる。
- 情報源
- 思考プロセス
- 反映先と内容
- 観測先と内容
マーケティングにおける行為単位での例えばの整理は以下。
| 仕事 | 主な情報源 | 判断を反映する場所 | 結果として読み直すもの |
|---|---|---|---|
| 目標と制約の把握 | 経営計画、会計、原価、在庫、供給力、事業者の意図 | 戦略資料、予算上限、停止条件 | 実際の費用、供給負荷、利益 |
| 市況と競合の把握 | 公開統計、検索、競合サイト、価格、レビュー | 市場の見取り図、調査範囲、検証仮説 | 新たな競合や代替手段、需要の変化 |
| 顧客の実態の把握 | 面談、通話、問い合わせ、現場の観察、利用ログ | 対象顧客と場面の定義、追加の調査 | 発言と実際の行動の一致や違い |
| 表現と接点の実装 | 戦略、商品情報、過去の素材、ブランドの約束 | 広告、CMS、メール、CRM、計測設定 | 表示、接触、申込後の行動 |
| 原因の検証と伝え方の調整 | 配信履歴、サイト行動、商談、購買、利用、問い合わせ | 説明、対象、順番、試用条件 | 変更後の理解、利用、継続 |
| 広告資本の再配置 | 媒体別費用、受注、利益、反応の時系列 | 予算の増減、停止、別の試行 | 費用に見合う新たな成果 |
| プロダクトへの接続 | 使い方の記録、顧客の声、仕様、開発上の制約 | 課題定義、変更仮説、開発計画 | 変更後の利用状況と運営負荷 |
機械からのアクセスは、五段階で見られる。
- 記録されている:
- 必要な出来事が、後から参照できる形で残っている。
- 情報に到達できる:
- エージェントが、その情報を読める。
- 単位化されている:
- 接触、申込、利用、費用を、判断に使える単位で結べる。
- 判断を書き込める:
- 判断した内容を、広告、サイト、CRM、開発計画などへ書き戻せる。
- 成果を観測できる:
- 変更した結果を読み、次の判断を変えられる。
公開情報を検索できても、社内の受注実績を見られない。
受注まで読めても、配信を変える権限がなければ人が操作する。
操作できても、その結果が次の判断へ戻らなければ一度きりの自動化にとどまる。AIの能力と同じくらい、この接続の状態が仕事を渡せる範囲を決める。
.
.
.
マーケティング業務の「自動運転レベル」の五段階
ここでは視点を変え、マーケティングの仕事を、目的から結果の再観測までどの範囲で任せられるかを考える。
5段階の区分けとストーリー

レベル1:観測を任せる
- エージェントが市場、広告、申込、受注などの変化を読み、異常や注目すべき差分を知らせる。人は通知を受けて、何が起きたかを調べ、次の行動を決める。
- 情報を集める負担は減るが、診断と実行は人が担っている。
レベル2:診断を任せる
- エージェントが接触から利用・利益までの情報を結び、変化が起きた場所、原因候補、追加で確かめるべきことを示す。人はその診断を確かめ、どの仮説を試すか決める。
- この段階では、広告上の成果と事業上の成果を同じ施策として読めることが重要になる。
レベル3:承認つきで実行を任せる
- エージェントが変更案をつくり、人の承認後に広告、CMS、CRMなどへ反映する。公開後の結果も記録し、次の案を出せる。
- 人は変更のたびに判断する。制作や設定を任せられる一方、次の試行を始めるには、その都度人の承認が必要な状態である。
レベル4:限定した範囲の自律循環を任せる
- 対象、予算上限、ブランド条件、成果の見方、停止条件を人が定める。その範囲内では、エージェントが表現や配信を変え、結果を読み、次の変更まで続けて行う。
- たとえば、特定の顧客群に対する広告と導線の改善を、一つの仕事として任せる。範囲外の支出や、約束する価値の変更が必要になれば人へ返す。
- ここから、個々の作業だけでなく、試行と改善の一周を引き受けられるようになる。
レベル5:複数の循環をつなぎ、必要な場所へ返す
- コミュニケーションの最適化、広告資本の再配置、損切りを別々に動かすだけでなく、互いの結果を踏まえて調整する。表現を変えても解けない問題があれば、戦術方針、市場戦略、プロダクトのどこへ戻すべきかを見分け、根拠とともに引き渡す。
- レベル5でも、どの市場と関係をつくり、何を約束し、何を開発するかの責任は事業を担う人が持つ。エージェントは、任された範囲の運転を続けながら、その範囲を超えた判断を適切な人や仕事へ届ける。
補足
-
このレベルは組織全体に一つ付けるものではない。
-
ある接点の改善はレベル4でも、顧客の利用実態をまだ記録できず、プロダクト接続はレベル1ということもある。
-
移行の初手は、すべての業務を一律にレベル1へ進めることとは限らない。
-
情報を読めて、変更を書き込めて、結果を読み直せる小さな範囲を選び、まず一つの仕事をレベル4まで運転できるようにする。
-
その循環同士を接続していく先に、レベル5の全体像がある。
.
.
.
.
.
D.マーケティング領域におけるDXビジョンと初手を描けるようになるには
ポイントまとめは図にしておき、詳細テキストはトグルに入れておくので見たい人はみてください。
どうビジョンを描くべきか
導入する機能ではなく、任せた後の仕事の姿で描く
「AIで広告をつくる」「分析を自動化する」「エージェントを導入する」は、手段の説明ではあるが、それだけでは仕事がどう変わるかが分からない。
たとえば、
- 事業側が対象顧客、利益の条件、予算、変えてはいけない約束を定める。
- その範囲内では、仕組みが市場の反応を読み、表現や配信を調整し、結果を確かめる。
- 人には、「今の対象では利益条件を満たしにくい」「伝え方では解けない利用上の障害がある」といった、機械に任せた範囲の調整必要性が届く
- それを変えるための判断についてマーケティングチームが会議をしている。
このように、誰が何に関与しなくてよくなり、何だけを判断するようになるかまで描くと、必要な仕組みと、残すべき人の役割が見えてくる。
全体のビジョンは広く描いてよい。
ただし、実装する範囲とは分けておく。市場戦略設計からプロダクト接続までの全体像を持つことと、その全工程を最初から機械化することは同じではない。

.
.
.
何を決めれば実装へ進めるか

テキスト解説
1.何を確かめるためのDXなのかを決める
最初に決めたいのは、AIを入れることによって何が起きてほしいのかである。
たとえば、
- 数字を集める時間を減らしたいのか。
- 異常に気づいてから変更するまでの時間を短くしたいのか。
- 人間では扱えない数の試行を回したいのか。
- 広告上の成果ではなく、受注や利益まで含めて判断できるようにしたいのか。
ここが曖昧なままだと、「AIで分析できた」「クリエイティブを生成できた」という実装上の成功と、仕事や事業が良くなったことが混ざる。
重要なのは、何ができるようになればこのDXに意味があったと言えるのかを先に決めること。
必要なのは、成功と失敗を後から区別できる状態をつくってから実装すること。
それがない中でも色々触って見てできそうだね〜には価値はない。
.
.
.
2.実用を始める条件と、人の承認を外す条件を分けて決める
機械が仕事を一周できる見込みがあることと、その仕事を無承認で任せてよいことは違う。
たとえば、
- 情報を集める
- 原因候補を出す
- 変更案をつくる
- 実際に公開する
- 広告費を使う
- 施策を停止する
では、失敗したときの影響がそれぞれ違う。
そのため、「AIが十分正確になったら自動化する」と一本の基準で考えるより、行為ごとにどの程度まで確認が必要かを分ける方がよい。
最初は、人が承認しながら実際の仕事を回す。
その中で、
- 必要な情報を読み落としていないか。
- 観測された事実と推測を混ぜていないか。
- 決められた制約を守れているか。
- 変更した内容を記録できているか。
- 変更後の結果まで読み直せているか。
- 人間側の確認や修正の負担が本当に減っているか。
を確認する。
人間と違う判断であっても、根拠があり、制約を守り、結果を確かめられるなら検証する余地はある。
逆に、制作時間が半分になっても、出力を確認するために同じだけ時間が必要なら、仕事の移管は成立していない。
また、下書きをつくることと、外部へ公開することと、予算を使うことも同じではない。
影響を限定でき、判断条件が安定したところから、少しずつ承認を外していけるフローイメージを持つこと。
.
.
.
3.機械が決めてよい範囲と、決められないときの戻し先を決める
自律化を考えると、「どこまでAIに判断させられるか」という方向に意識が向きやすい。
ただ、実際にはそれ以上に、何を勝手に決めてはいけないかを決めることが重要になる。
たとえば広告運用の循環であれば、
- 表現・配信量・成果の弱い施策を止める・承認された範囲で別の表現を試す
ところまでは機械へ任せられるかもしれない。
一方で、
- ターゲットそのものを変える・商品が約束する価値を変える・価格体系を変える・ブランドとして避けている表現を使う・商品仕様の変更を決める
ところまで、同じエージェントが自分で決める必要はない。
むしろ、
「このターゲットへの目標到達問題は広告表現の変更では解けない」
「市場やターゲットを見直す必要がある」
「利用上の問題なのでプロダクト側へ返すべきである」
と判断し、適切な場所へ返せる方が重要になる。
これは例外処理というより、人と機械の責任分界を決める作業に近い。
何でも判断できる万能なエージェントを作る必要はない。
限定した範囲では自律的に走り、その範囲を超えた問題が起きたら、それを認識し、正しい人や仕事へ返す。
そこまで設計されていれば、実装の難易度は大きく下がる。
.
.
.
落とし穴は何か

テキスト解説
1.今の担当者の手順を、そのまま正解として保存してしまう
- 現場の仕事には、必要な判断と、情報や道具の不足を埋めるための手間が混ざっている。
- 毎回二つの表を突き合わせているのは、その照合作業に専門性があるからではなく、同じ施策として情報を読めないからかもしれない。
- 担当者への確認が必要なのも、高度な判断を求めているのではなく、変更してよい範囲が記録されていないからかもしれない。
- このような手順まで忠実に再現すると、不便さを機械へ移すことになる。
- 一方で、すべてを一般的なマーケティング理論へ置き換えてよいわけでもない。
- 顧客との約束、避けたい売り方、供給上の制約などは残す必要がある。会社固有の条件と、単に今の環境に合わせて生まれた手順を分ける。
.
.
.
2.業務負荷への対応と、高度化/機械化の構想混ぜない
>>マーケティング担当者が「今の仕事のうち、何を自動化してほしいか」をまとめ、実装者がそれを実現する。
この進め方だけでは、今の仕事の分け方や、人が間をつなぐ前提まで残りやすい。
- 広告をつくる人、数字を集める人、原因を考える人、予算を変更する人。それぞれの作業を軽くすること
- その間を人がつながなくても仕事が進むようにすること
この2つは全く別の構想になる。
マーケティング側が機械の可能性を知らずに要件を固めると、今ある仕事の省力化に閉じやすい。
.
.
.
3.サイクル単位を間違える。循環を速くすることと、よい判断をすることを混同する
- クリックを増やす循環が回っても、受注や利益につながっていなければ、事業にとって望ましい自律循環とはいえない。
- 評価する対象を間違えたまま速く動かせば、その間違いを速く拡大することになる。
- また、変更後に数字がよくなったという事実と、その変更が原因だったという判断も分けたい。
- 自律循環には、変更する能力だけでなく、変更しない判断も必要になる。反応が足りないときには待つ仕様が必須となる。
- 複数の原因が考えられるときには、追加で確かめる。
- 分からないまま表現と予算を同時に変え続けない。
- 流暢な原因説明が出ることより、何が観測された事実で、何が仮説で、次に何を確かめればよいかが分かれていることを重視する。
.
.
.
まず何からすべきか

テキスト解説
1.最近のピボットの一件を、気づきから結果の確認まで辿る
最初から全業務の棚卸しを完成させる必要はない。
最近、実際に変更を行った施策を一つ選び、その始まりから結果の確認までを辿る。
- 何を見て、問題や機会に気づいたのか。
- どの情報を追加で調べ、どんな原因を考えたのか。
- 誰が何を決め、どの画面や資料を書き換えたのか。
- その後、何を見て変更を続けるか、戻すかを判断したのか。
このとき、説明だけで済ませず、実際の管理画面、表、会話、変更履歴を一緒に見る。
仕事を説明するときには省略される照合や確認も、機械へ渡す際には必要な接続になる。
情報構造に沿って一件を辿ると、判断が難しいのか、必要な情報がないのか、情報はあるがつながっていないのか、変更する権限がないのかが分かれてくる。
初手はそういった改めて仕事を落ち着いて1本の線で見渡すこと。
.
.
.
2.小さくても、最後まで自律循環で回る範囲を選ぶ
最初の対象は、単に件数が多い作業や、AIで生成しやすい仕事から選ぶのではない。
繰り返す判断があり、必要な情報に届き、変更できる場所があり、結果を確かめられる範囲を探す。
そのうえで、十分な反応を得られるか、結果が出るまでどれほど待つ必要があるか、人が引き取る例外が多すぎないかを見る。
たとえば、
- 既存商品の特定の顧客群に向けた獲得施策を対象にする。
- 商品が約束する価値と対象顧客は固定し、承認された訴求の範囲で広告表現を変更する。
- 広告上の反応だけでなく受注と採算まで読み、続けるか、止めるか、別の表現を試すかを判断する。
- 対象や商品の変更が必要になったら、人へ返す。
この一周に必要な情報と操作を、まずシーケンシャルにつなぐ。
全社のデータを先に統合する必要はないが、この範囲の受注実績が読めないなら、それを読めるようにすることが初手になる。
変更履歴が残っていないなら、何を変えたかを記録することから始める。
だから、到達先が自律循環でも、最初の実装がAIとは限らない。
情報を結ぶこと、結果を記録すること、判断条件を明文化することが先になる場合もある。逆に、情報と操作がすでに整っていれば、限定した循環の実装へ早く進める。
.
.
.
3.一連の作業で人と並走させ、確かめた範囲から指示と承認を外す
対象を決めたら、まずは実際の情報を読み、変更案を出すところまで動かす。
- 過去の事例で確かめる場合は、その時点で分かっていた情報だけを渡す。
- 後から判明した結果を先に見せないようにする。
次に、
- 人が案を確認し、承認したものを反映する。
- ここでは案の質だけでなく、意図した場所へ正しく反映されたか、変更内容が記録されたか、その後の結果を同じ施策として読み直せたかまで確認する。
そのうえで、
- 判断条件が明確で、影響を限定でき、停止と引き継ぎが機能する部分から、都度の承認を外す。
- すべての例外を解消してから動かすのではなく、機械に任せる範囲と、人へ返す範囲を実際の運転から調整していく。
この過程で、定型的な集計や上限の確認までAIの判断に任せる必要はない。
決まった手順で確実に処理できる部分と、情報の解釈や表現の生成が必要な部分を組み合わせればよい。
最初の成果は、「AIが一つ作業できた」ではなく、「この範囲では、人が次の作業を指示し続けなくても、観測、変更、再観測が進むようになった」と説明できることに置く。
その一周を成立させたうえで、対象を広げるのか、変更できる範囲を広げるのか、隣の循環とつなぐのかを判断する。
全体像を持ちながら、仕事が実際に移った範囲を一つずつ増やしていく。
.
.
.
.
.
終わりに
マーケティングの不毛さは、ボールペンみたいな職人魂のある機械化により終わりを迎えられる。
(ほぼ勝手なポエム)
この変化を考えるとき、ボールペンを思い浮かべる。
- 先端の小さなボールが動き、インクが紙へ移る。
- 書くためにはインクが届き、書かない間には余計に流れ出ないようにしなければならない。
- 持つ角度や筆圧も一人ひとり違う。
使い手は、その仕組みを毎回理解しなくても書ける。
道具と製造の仕組みが、使い手の代わりに細かな調整を引き受けている。
「ボールペンのような発明、整備が終わったらマーケティングの不毛さは消えるな〜」と言うときに思い描いているのは、この状態である。
クリエイティブや露出を作る仕事以上に、細かい調整をやり切らない限りマーケティングとしての成果を再現性のある資産にすることはできない。
その調整は予算やキャンペーンコストのコントロールだけの話ではない。
私の見立てでは、マーケティングを価値創造の主役の一つへ押し上げたデジタルが、今度はその仕事を専門職から道具と事業の仕組みへ移していく。
1つ1つ、不要な分業をなくし、不要な組織規模をなくし、最も顧客が見えているそいつの頭がマーケティングに反映される感じになっていく。
そのためにはドラえもんっぽい発明ではなく、実情をめっちゃ踏まえたボールペンみたいな感じのマーケティングインフラ基盤が作られている状態だと思われる。